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東京地方裁判所 平成6年(ワ)18843号 判決 1995年12月06日

原告

リースボード株式会社

右代表者代表取締役

田代裕昭

右訴訟代理人弁護士

神﨑浩昭

櫻井義之

被告

株式会社エイシンプランニング

右代表者代表取締役

斉藤利昭

右訴訟代理人弁護士

山野一郎

主文

一  被告は原告に対し、金一四五〇万円及びこれに対する平成六年五月一六日から支払済みまで年六分の割合による金員を支払え。

二  訴訟費用は被告の負担とする。

三  この判決の第一項は、仮に執行することができる。

事実及び理由

第一  原告の請求

主文と同旨

第二  事案の概要

一  判断の基礎となる事実

1  原告は有限会社メディアプロデュース(以下「メディアプロデュース」という。)との間で、平成五年五月一六日、東京都中央区銀座五丁目八番一六号白牡丹ビル屋上部分について、次の約定により、広告物設置場所として使用することを許可する契約を締結した。

(一) 使用許諾期間 平成五年五月一六日から満三年間

(二) 掲出料 一年につき一四五〇万円

(三) 支払条件 毎年五月一五日限り当年分を支払う。

2  メディアプロデュースは被告との間で、平成五年五月一六日、右屋上部分について、次の約定により、広告物設置場所として使用することを許可する契約を締結した。

(一) 使用許諾期間 平成五年五月一六日から満三年間

(二) 掲出料 一年につき一五〇〇万円

(三) 支払条件 毎年五月一五日限り当年分を支払う。

3  被告はテレワーク株式会社との間で、平成五年五月二四日付けで、右屋上部分について、次の約定により、広告物設置場所として使用することを許可する契約を締結した。

(一) 使用許諾期間 平成五年五月一六日から満三年間

(二) 掲出料 一年につき一六〇〇万円

(三) 支払条件 毎年五月一五日限り当年分を支払う。ただし、平成五年五月一六日から一年間の使用料は、同月二四日までに支払えば足りる。

4  テレワーク株式会社は日本アドバンスド・プロダクト株式会社との間で、平成五年四月一九日付けで、右屋上部分について、広告物設置場所として平成五年五月一六日から満三年間使用することを許可する契約を締結した。

そして、日本アドバンスド・プロダクト株式会社は右広告設置場所に中国法人の広告板を設置させた。

5  ところが、右中国法人は、平成五年一一月、中国政府の経済政策の変更により中国の顧客の広告を日本国内に掲出することができなくなったとして、翌年以降の広告物設置場所使用許諾契約の解約の申入れをしてきた。これを受けて、日本アドバンスド・プロダクト株式会社は、同年一二月二二日付けで、テレワーク株式会社に対し、平成六年五月一五日をもって広告物設置場所使用許諾契約を解約する旨の申入れをした。これを受けて、テレワーク株式会社は、平成六年一月六日付で、被告に対し、同年五月一五日をもって広告物設置場所使用許諾契約が消滅する旨の通知をした。そこで、被告は、平成六年一月六日付けで、メディアプロデュースに対し、同年五月一五日をもって広告物設置場所使用許諾契約が消滅する旨の通知をした。

6  メディアプロデュースは無資力であり、原告に対し、平成六年五月一六日以降の広告物設置場所の使用料を支払っていない。

(以上の事実は、当事者間に争いのない事実及び弁論の全趣旨によって認めることができる。)

二  原告の主張

原告はメディアプロデュースに対し、一四五〇万円の広告物設置場所使用料債権(平成六年五月一六日から一年間分)を有する。しかし、同会社は無資力であるから、原告は債権者代位権に基づき、同会社が被告に対して有している一五〇〇万円の広告物設置場所使用料債権(平成六年五月一六日から一年間分)のうち、原告がメディアプロデュースに対して有する債権の範囲内である一四五〇万円及びこれに対する弁済期の翌日である平成六年五月一六日から支払済みまで商事法定利率年六分の割合による遅延損害金の支払を求める。

三  被告の主張

1  被告とメディアプロデュースとの間に締結された広告物設置場所使用許諾契約には「行政庁の指示、法令、その他の事由により設置掲出が継続できなくなった時は、この契約は消滅する」との特約があり、中国政府の経済政策の変更により中国の顧客の広告を日本国内に掲出することができなくなったことによる日本アドバンスド・プロダクト株式会社及びテレワーク株式会社の広告物設置場所使用許諾契約の各解除は、ここに定める特約事由に該当する。被告はメディアプロデュースに対し、右特約事由に基づき、平成六年一月六日付けで、同年五月一五日をもって広告物設置場所使用許諾契約が消滅する旨の通知をしたのであり、これによって、右契約は消滅している。

2  仮に右1の主張が認められないとしても、日本アドバンスド・プロダクト株式会社は原告と話合いをし、平成六年五月一五日ころ、原告は各関係者間の広告物設置場所使用許諾契約を合意解除することを了解したので、原告はメディアプロデュースに対し、広告物設置場所使用料債権を有しない。

3  原告は、平成六年五月一五日ころ、日本アドバンスド・プロダクト株式会社と協議をし、本件広告物設置場所に設置してあった同会社の広告物を撤去したので、これによって前記各当事者問の各使用許諾契約は解除となり終了した。

四  争点

1  中国政府の経済政策の変更により中国の顧客の広告を日本国内に掲出することができなくなったことが、被告とメディアプロデュースとの間の広告物設置場所使用許諾契約に定める契約消滅事由に当たるか。

2  原告と日本アドバンスド・プロダクト株式会社との間に被告主張のような合意解除が成立したといえるか。

3  原告が本件広告物設置場所に設置してあった日本アドバンスド・プロダクト株式会社の広告物を撤去したことによって、前記各当事者間の広告物設置場所使用許諾契約が解除となり終了したといえるか。

第三  争点に対する判断

一  中国政府の経済政策の変更により中国の顧客の広告を日本国内に掲出することができなくなったことが、被告とメディアプロデュースとの間の広告物設置場所使用許諾契約に定める契約消滅事由に当たるか。

原告とメディアプロデュースとの間、メディアプロデュースと被告との間及び被告とテレワーク株式会社との間の各広告物設置場所使用許諾契約の第一一条には、「天災、地変、その他の事由により、本件建物において看板を常態として使用することができなくなったと契約当事者が認めるとき、又は行政庁の指示、法令、その他の事由により設置掲出が継続できなくなった時は、この契約は消滅する」との記載がある(甲第二号証、乙第一、第四号証)。右契約条項は、その文言自体からみて、物理的事情により広告物の設置場所の使用が不能となった場合及び法令又は行政庁の指導等により法的にみて広告物の設置場所の使用が不能となり、又は許容されなくなった場合に、契約が当然に消滅するということを定めたものであり、単に広告物の設置場所を使用することができない事情が生じたというのみでは、この条項の定めには該当しないものというべきである。

したがって、中国政府の経済政策の変更により中国の顧客の広告を日本国内に掲出することができなくなったという事情が生じたとしても、これによって、原告とメディアプロデュースとの間、メディアプロデュースと被告との間及び被告とテレワーク株式会社との間の各広告物設置場所使用許諾契約が消滅するものとはいえない。

日本アドバンスド・プロダクト株式会社は、中国法人から、中国政府の経済政策の変更により中国の顧客の広告を日本国内に掲出することができなくなったとして翌年以降の広告物設置場所使用許諾契約の解約の申入れがされたのを受けて、同年一二月二二日付けで、テレワーク株式会社に対し、平成六年五月一五日をもって広告物設置場所使用許諾契約を解約する旨の申入れをしている(乙第六号証)。しかし、この申入れは、右認定の契約の当然消滅条項に基づくものではなく、日本アドバンスド・プロダクト株式会社とテレワーク株式会社との間で合意された正当事由に基づく解約申入れの条項に基づくものであり、これにより、日本アドバンスド・プロダクト株式会社とテレワーク株式会社との間の契約は、三か月の事前予告期間の経過とともに解約されているのである(乙第一一号証)。原告とメディアプロデュースとの間、メディアプロデュースと被告との間及び被告とテレワーク株式会社との間の各広告物設置場所使用許諾契約には、このような正当事由に基づく解約の定めがないのであるから、原告、メディアプロデュース、被告及びテレワーク株式会社が、日本アドバンスド・プロダクト株式会社と同様に右契約の正当事由に基づく解約をすることができなかったとしても、それは致し方のないことである。

二  原告と日本アドバンスド・プロダクト株式会社との間に被告主張のような合意解除が成立したといえるか。

右争点について事実の解明をするため、当裁判所は、被告の申出に基づき、日本アドバンスド・プロダクト株式会社の代表取締役である若竹日方を証人として呼び出した。これに対して同人は、大橋尭を伴って出頭し、本件に関する同会社の担当者は大橋であり、具体的事情を知るのは同人である旨述べた。そこで、当裁判所は、原告及び被告各代理人の意見を聴いた上、若竹の証人採用決定を取り消し、被告の新たな申出に基づき、大橋尭を証人として採用し、即日尋問した。

証人大橋の証言によれば、同人ないし日本アドバンスド・プロダクト株式会社は、本件で問題になっている広告物設置場所使用許諾契約の解約の了解を原告から取りつけたことはないということであり、右証言の信用性を揺るがすような証拠はない(テレワーク株式会社の代表取締役である証人斉藤利昭は、日本アドバンスド・プロダクト株式会社が原告から右解約の了解を取り付けたと聞いた旨供述するが、右供述は、行為者を特定しない伝聞であり、信用性がない。)。

したがって、被告の合意解除の主張も理由がない。

三  原告が本件広告物設置場所に設置してあった日本アドバンスド・プロダクト株式会社の広告物を撤去したことによって、本件各当事者間の広告物設置場所使用許諾契約が解除となり終了したといえるか。

仮に原告が本件広告物設置場所に設置してあった日本アドバンスド・プロダクト株式会社の広告物を撤去したとしても、それによって当然に本件各当事者間の広告物設置場所使用許諾契約が解除となり終了したということはできないから、被告の右主張も理由がない。

四  結論

以上のとおり、被告の主張はいずれも理由がないから、原告の請求を認容することとして、主文のとおり判決する。

(裁判官園尾隆司)

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